「データが取れます」を売るな──現場が欲しいのは判断の根拠だ

「先月のデータを確認したいんですが」と師長が言ったのは、導入から半年後のことでした。担当者がメーカーに連絡したのは翌週。データが手元に届いたのはさらに1週間後でした。

届いたのは大量の数字が並んだExcelファイルでした。「これ、どう使えばいいんですか?」と師長が田中さんに聞きました。田中さんには答えられませんでした。

「データが取れます」。それは本当のことでした。でも現場が欲しかったのは、データではありませんでした。


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「データが取れます」の裏側

「データが取れます」という言葉には、続きがあります。

「ただし、取り出すにはメーカーへの依頼が必要です」。リアルタイムで見られるわけではありません。必要なときにすぐ手元に届くわけでもありません。依頼して、待って、やっと届きます。その頃には現場の状況が変わっていることもあります。

「ただし、評価方法は現場で考えてください」。データが届いても、それをどう読むか、何と比較するか、何を改善すべきかは現場に丸投げです。看護師はデータアナリストではありません。日々の業務をこなしながら、データの評価方法を一から考える余裕はありません。

「ただし、活用にはスキルが必要です」。データを意味のある判断につなげるには、統計の知識も業務改善の経験も必要です。そのスキルを持つ人材が現場にいることは稀です。

結果、データは封印されます。ダッシュボードは開かれなくなります。「データが取れます」は、使われない機能になります。


現場が本当に欲しいものは何か

現場はデータが欲しいわけではありません。データを使って「次に何をすべきか」がわかることが欲しいのです。

具体的には3つです。

1. 次のアクションにつながるデータ 数字の羅列ではなく、「この数字が下がっているから、この対策をとる」という判断ができる形で届くことです。師長が朝のミーティングで使える、シンプルな情報です。

2. 導入効果が見えること 「入れる前と後で何が変わったか」が数字で示せることです。経営者への報告にも使えます。現場スタッフの「やってよかった」という実感にもつながります。

3. 改善の評価ができること 取り組んだことが正しかったかどうかを振り返れることです。データが改善のサイクルに組み込まれて初めて、導入は「成功」になります。

この3つを提供できないまま「データが取れます」と言い続けるベンダーは、現場から信頼されません。


では何をすべきか

答えは2つあります。順番が大事です。

まず導入前に、データをどう使うかを現場と合意しておくことです。「このシステムで何のデータを取り、それを使って何を改善するのか」。この問いに現場と一緒に答えておかなければ、後からデータを渡しても誰も使いません。導入前の合意が、データ活用の土台になります。

次に導入後に、データの読み方と使い方を一緒に設計することです。データを届けて終わりではありません。「この数字が下がったときはこう動く」「月次でこのレポートを師長と確認する」という運用の仕組みを、現場と一緒に作ることです。

この2つができて初めて、「データが取れます」は価値になります。現場が欲しいのはデータではありません。データを使って判断できる環境です。

そしてその環境が整ったとき、現場は次を考え始めます。「次はどのシステムを入れようか」「また同じメーカーに頼もう」。信頼は一度の導入では生まれません。データが現場の改善に役立った実感が、次の依頼につながります。

データ活用を支援できるベンダーだけが、現場から選ばれ続けます。それが、定着支援という専門領域が存在する理由です。

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