導入から4ヶ月後、田中さんはアンケート結果を眺めていました。「使いやすい」「まあ使いやすい」が全体の7割。「使いにくい」と答えたのは2名だけでした。数字だけ見れば悪くありません。
でも先週訪問した病棟では、タブレットより先に紙のバインダーに手が伸びていました。
アンケートは嘘をついていません。でも現場も嘘をついていません。
使われない理由は、製品の外にあります。
現場には、長年かけて積み上げられたルールがあります。申し送りはこのボードに書く。記録はこの様式で残す。確認はこの順番でやる。誰も疑いません。誰も変えようとしません。それが「うちのやり方」だからです。
新しいツールは、そのルールの上に置かれます。でもルール自体は変わっていません。だから現場は「ツールを使いながら、今まで通りのやり方」を続けます。
そこに必ず1人か2人、声の大きい人がいます。「これ使いにくい」「前の方が良かった」。その声はよく通ります。周りも引っ張られます。でもその人が本当に主張しているのは「使いにくさ」ではありません。「今までのやり方を変えたくない」という本音です。
製品の問題として片付けると、本質を見失います。
現場が止まる本当の場所
ほとんどのベンダーは、導入を「ゴール」だと思っています。稟議が通った。契約できた。インストールした。研修をやった。これで仕事は終わりだと。
でも現場にとって、導入は「スタート」でしかありません。
ツールを入れることが目的になった瞬間、現場の業務改善は止まります。「何のためにこのツールを使うのか」という問いが宙に浮きます。現場スタッフは与えられたツールを「こなす」だけになります。だから紙との併用が残ります。だからアンケートは悪くないのに現場は変わりません。
使われない理由は、製品にありません。現場のルールにあります。そしてそのルールを変えないまま、ツールだけを置いていくベンダーの設計にあります。
では何をすべきか
答えはシンプルです。ツールを入れる前に、現場の業務を棚卸しすることです。
今の業務フローはどうなっているか。どこに非効率があるか。誰がどの判断をしているか。何のためにその記録を残しているか。この問いに答えられないまま、ツールだけを置いても現場は変わりません。
棚卸しをすることで初めて「このツールで何を変えるのか」が明確になります。現場スタッフも「なぜ変わるのか」を理解できます。声の大きい人の抵抗も、正面から受け止められます。
ツールは手段です。目的は現場の業務改善です。その順番を間違えているベンダーが、今も使われないシステムを量産し続けています。
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