導入から8ヶ月が経っていました。田中さんが病棟を訪問すると、ナースステーションの壁に手書きの申し送りボードがありました。その隣には、自社が納品したタブレットが充電器に刺さったまま、画面が暗くなっていました。
「使っていただいていますか?」と田中さんが聞くと、担当の師長はこう答えました。「使ってますよ。でも、これがないと困るってわけでもなくて」。
田中さんは返す言葉がありませんでした。導入前、あれほど「現場が変わる」と信じていました。稟議を通すために何度も病院に足を運びました。やっと導入できました。なのに目の前にあるのは、暗い画面のタブレットでした。
使われていないわけじゃない。でも、定着もしていない。
この状態に、名前をつけたことはありますか?
現場には、定着の「段階」がある
医療DXの現場を長年見てきて、気づいたことがあります。定着は「する」か「しない」かの二択ではありません。段階があります。
Stage1:未導入 ツール自体が存在しません。「うちにはまだ早い」「予算がない」。導入の入口にも立っていない状態です。
Stage2:形式導入 入れたが、誰も使っていません。ナースステーションのPCにインストールされたまま、一度も起動されていないシステムです。
Stage3:仮の定着 使われてはいます。でも紙も併用しています。個人の工夫で「なんとか回っている」状態です。業務が止まっていないから問題として認識されません。でも本来の効果は出ていません。充電器に刺さったまま暗くなっていたタブレット。
Stage4:実質定着 補完運用がなくなり、ツールが標準になりました。「これがないと仕事にならない」と現場が言う状態です。
Stage5:改善定着 データが判断に使われ、業務の再設計が継続しています。ツールが現場を変え続けている状態です。
あなたの製品は今、どの段階にいますか?
日本の中小病院の多くは今、Stage3に止まっています。導入実績を積み上げてきたベンダーも、実態を見れば多くの製品がここに止まっています。あなたの製品も、例外ではないかもしれません。
正直に答えてみてください。
・導入後6ヶ月以上経っても、現場で紙が併用されていませんか? ・「使っています」と言われるが、使用率のデータを持っていませんか? ・導入後の現場訪問が、トラブル対応以外でできていますか? ・現場スタッフから「これがないと困る」という言葉を聞いたことがありますか?
1つでも引っかかったなら、あなたの製品は今Stage3にいる可能性が高いです。
なぜStage3に止まるのか
理由はシンプルです。現場が優秀だからです。
導入後、ベンダーのサポートが薄くなります。現場は困ります。でも止まるわけにはいきません。だから自分たちで「回る方法」を見つけます。タブレットと紙を併用します。個人の工夫でカバーします。気づけば「なんとか回っている」状態が完成します。
問題は、その状態が「成功」に見えることです。業務は止まっていません。クレームも来ません。ベンダーも「定着した」と思います。でも現場は、ツールがなくても回る方法をすでに持っています。
これがStage3の正体です。
Stage3から抜け出すために必要なこと
答えはシンプルです。導入後に、現場の業務を棚卸しして再構築することです。
現場が生み出した「回る方法」を一つひとつ可視化します。紙との併用がなぜ起きているのかを理解します。そのうえで、ツールを中心とした新しい業務の流れを現場と一緒に設計し直します。
これはベンダーだけでできることではありません。現場を知っていて、経営も見えていて、現場スタッフと一緒に動ける人間が必要です。
それが、定着支援という専門領域が存在する理由です。
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