中小病院の意思決定構造を知らずに売るな──誰が本当の決裁者か

田中さんが病棟を訪問すると、誰も頼んでいないシステムが入っていました。

「これ、どういう経緯で入ったんですか?」と師長に聞きました。「上から入れろと言われて」と師長は答えました。現場スタッフに聞いても同じ答えでした。「なんか入ることになったらしい」。

誰も欲しがっていませんでした。でも入っていました。

導入から6ヶ月後、そのシステムの使用率は導入初月の半分以下になっていました。意思決定をされた方は「DXを進めた」と満足されていました。現場は仮の定着で止まっていました。そして次の提案を持っていっても、「前回のもまだ使いこなせていないので」と断られました。

誰が意思決定者かを理解せずに進めると、こうした状況が生まれることがあります。


目次

中小病院の意思決定構造とは何か

中小病院の意思決定は、組織図通りには進まないことがあります。関わる方それぞれが異なる視点と責任を持っており、その複雑さを理解することが、提案を前に進める上で欠かせません。

院長は最終決定者であることが多く、看護師の確保や現場の安定が病院経営に直結することをよく理解されています。現場の声を大切にしながら、必要な投資を判断される方が多いです。ただし病院の経営状況や方針によって、DXへの姿勢はさまざまです。

事務長は病院の財務を守る立場から、費用対効果を重視されます。具体的な数字と導入後の道筋を示せる提案が、事務長の判断を後押しします。意思決定において実質的に重要な役割を担われていることが多いです。

看護部長は現場のスタッフが働きやすい環境を作ることを最優先に考えていらっしゃいます。現場の声を丁寧に拾い上げながら慎重に判断されます。現場への影響を誰よりも真剣に考えているからこそ、導入の判断に時間をかけられることもあります。

師長は現場を最もよく知っていらっしゃる方です。日々の業務の中で何が必要で何が不要かを肌感覚で理解されており、その判断が現場全体の意思決定に大きく影響することがあります。

複数の病院や施設を運営する医療法人の場合、理事長や法人本部が意思決定権を持つことがあります。法人全体の方針や予算配分の中で判断されるため、現場レベルでの合意だけでなく、法人レベルでの理解も必要になります。理事長や法人の意思決定者に直接お会いできる機会はほとんどありませんが、現場の院長・事務長・看護部長との信頼関係を積み上げることが、現実的なアプローチです。


意思決定構造を理解しないと何が起きるか

意思決定構造を理解せずに進むと、二つのパターンでつまずきやすくなります。

法人・理事長が意思決定者の場合、現場の院長や事務長との話が順調に進んでいても、法人の方針や予算配分が壁になることがあります。現場の反応が良かったのになぜ決まらないのか、見えにくい状況が生まれることがあります。また法人主導で導入が決まった場合も、現場の思い入れが薄いまま入ったシステムは、徐々に使われなくなるリスクがあります。

院長以下が意思決定者の場合、「前向きに検討します」という言葉から返事が来ないまま時間が経つことがあります。誰に話を進めればいいのかが見えにくく、提案が宙に浮いてしまうことがあります。最終的に導入が決まっても、意思決定のプロセスで現場の声が十分に反映されていなければ、使われにくいシステムになる可能性があります。

いずれの場合も、意思決定構造を事前に把握しておくことで、こうしたリスクを大きく減らせます。


では何をすべきか

まず師長・看護部長・事務長、それぞれの立場に合わせた提案をすることです。

師長には「現場がどう楽になるか」を伝えます。看護部長には「現場が変わることで組織にどんな効果があるか」を伝えます。事務長には「費用対効果と導入後の定着までの道筋」を伝えます。同じシステムでも、相手の立場によって伝えるべきことは異なります。

この3人を味方につけることができたら、次のステップに進みます。意思決定者が誰かを把握します。院長や理事長に直接アプローチできる状況であれば、直接動きます。

直接アプローチが難しい場合は、味方になった3人にサポートしていただきます。看護部長や事務長が「このシステムを入れたい」という意志を持って動いてくださることが、最も効果的なアプローチです。

現場の方々を味方につけることが、意思決定者を動かす最短ルートです。そのためにも、現場の意思決定構造を理解した上で動くことが、定着への第一歩になります。

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